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A380生産終了・1 胴体の話 [├雑談]

A380の生産中止が発表されましたね。
ネット上には、どうして中止に至ったかについて思わず「おお、なるほど!」
と膝を叩いてしまうような鋭い分析記事がたくさんあります。
それらと極力被らない方向で、生産中止をテーマにオイラも書き始めたんですが、
話がいろいろ広がって収拾つかなくなってしまいました。
生産中止どころか開発段階から話が始まってしまうのがオイラのダメなところ(o ̄∇ ̄o)フフ
マ〇ア様にとっては当然の内容ばかりでしょうが、よろしければお付き合いくださいませ。


座席数を増やすには
1.胴体のストレッチ
旅客機の常とう手段で、最も手っ取り早い方法です。
ただし、これには限度があります。
ヒコーキは離着陸時に機首上げをしなければならない訳ですが、
重心位置である主翼の辺りに主輪があり、
主輪より後方の胴体を伸ばし過ぎると、機首上げ時に尻もちをついてしまうため、
後ろをやみくもに伸ばす訳にはいきません。
それではと主翼より前方を伸ばし過ぎると、
前後のバランスが崩れてしまいます。
ヒコーキは主翼で揚力を発生させて飛ぶため、
主翼よりどちらかが重いと、シーソーのようにたちまち傾いてしまいます。
「胴体を伸ばして座席数を増やす」というこの方法、余りに便利過ぎるため、
尻もち防止用に「テールスキッド」を装着する機種が登場する程であり、
そんな機種にとってこの方法は既に限界です。
このテールスキッド、エアバスの元祖4発旅客機A340にもついてるので、
「座席数で747を凌駕するヒコーキ」のデザインについて議論する技術者たちにとって、
「単純に胴体伸ばす方法だと、A340レベルで頭打ちなんだよな~」が大前提。

「これ以上伸ばすと尻もちつく!」というところからまだまだ胴体を伸ばす方法は、あるにはあります。
それは脚を長くすること。
長くなった分だけ胴体を伸ばすことができます。
ただし降着装置は非常に重くて、飛行中は格納にも大スペースを要します。
ヒコーキの脚は、切り詰めて切り詰めて、それでも全構造重量の10%にも達するため、
人間とは異なり、「脚は1mmでも短く」がセオリー。
その脚を余計に伸ばすと重量がかさんでしまいますし、飛行中に格納するために、
燃料や貨物を収納するスペースを奪い、それでも足りなければ胴体に大きな膨らみができ、
空気抵抗が増えてしまうかもしれません。
経済性が特に厳しく求められている昨今、ライバル機より性能が劣る要因になってしまうため、
メーカーにとって「脚を伸ばしてまでストレッチ」というのは、使いたくない方法です。

2.胴体の横幅を広げる
「脚を伸ばしてまで胴体のストレッチをするのもなぁ。。。」となると、
次なるテとしましては、客室の横幅を広げる。という方法があります。
「エアバスUHCA」等でググって頂きますと今でも見れますが、
エアバスは超大型機の案として、この横幅を広げる方式の構想図を出していました。
ただしこの方法にも問題はあります。
先ず、「囚人席」が増えます。
「囚人席」とは、「両側を通路でも窓でもなく、座席に挟まれている座席」のことで、
以前どこかのサイトで拝見した表現です(「ミドルマンの悲劇」の方が一般的ですけども)。
A380は元々、長距離便の主役を担うヒコーキとして開発が進められました。
しかし、両側に座っているのが親しい人ならまだしも、
10時間以上に亘り知らない人に両側を挟まれるというのは、オイラのように他人が苦手な人からすると拷問です。
トイレに行きたい時も、「すいませんすいません」と遠慮しながらで、
両側とも熟睡していたりすると、「目を覚ませ~」と延々念を送り続けるよりありません。
幸いにして? エアバスの設計者はA380の横幅を747より50cm弱しか広げませんでした。
そのためエコノミーの座席は、777や747と同じく、3-4-3の10アプレスト(最大11らしいけど)。
この配列でも全体の4割が「囚人席」となり、
しかもオイラのように小心者だけど窓席に座りたいという面倒くさい人の場合、
通路に出るためには2人同時に前を通してくれるベストのタイミングを横目でチラチラと探し続ける羽目になります。
ことほど左様に現状でさえ(もうこれ以上囚人席増やすのは勘弁して欲しい)
と切実に思っているんですが、「横幅を広げて座席数を増やす」方法を採用した場合、
例えば4-8-4の16アプレストとかになったりすると、囚人率は62.5%にも達します(XДX)

フライト中トイレに行くための心理戦がそここで発生し、機内の雰囲気が悪くなってしまうかもしれません。
搭乗時だって、自分の座席を見つけて、(はーやれやれ落ち着いた)と思ったら、
「あのー、ソコに座りたいんですけど…」ということがそこここで生じ、
搭乗の準備がちっとも進まない。ということになりかねません。

この問題を解消する方法はあります。
通路の数を増やすことです。
例えば、2-3-3-3-2の13アプレストとすれば、「囚人席」は3/13席となり、全体の23%に減ります。
更に2-2-2-2-2…となってくれれば、もう最高です。
「オーホホホホ! いくらでも横幅広げてくれていいのよ!?(←誰?)」
余談ですが、空力を追求していくと「全翼機」という横幅がとんでもなく長いヒコーキが出来上がるんですが、
縦横にたくさん通路設ければOKですね。
…と、ここまで書いてて気が付いたんですが、
こういう「囚人席」の発生しない/あまり発生しないステキ配列、上級クラスではもう既に実現してますよね。
「できるんなら全クラスで実現せよ!」と声を大にして要求したいところなんですが、
通路が増えるということは、その分本来座席を置けるはずの場所を潰すことになります。
経営側がエコノミー料金でおめおめと要求を呑むなどあり得ません。
「囚人席が嫌なら、その分金を払え!」と言われるに決まってます。

座席数を増やすために横幅を広げるというこの方法、
単に精神衛生や懐具合の問題だけではなく、設計者にとってはもっと切実な問題があります。
「与圧」です。
離着陸時に耳がヘンになる(痛くなる)ことから分かるように、
飛行中の客室内は常に1気圧に保たれているのではなく、
「これくらいなら長時間でもまあガマンできる」という程度にしか与圧しません。
それでも、高度10kmでは、ハガキ1枚に約90kg、窓1枚に数百kgもの圧力がかかっています。
こんな恐ろしい圧力が横幅を広げた平べったいヒコーキにかかったら、
平面になっている床や天井にものすごい力がかかってしまいます。
この力に負けずに床や天井が平面を保っていられるようにするには、
頑丈な梁を天井と床にたくさん渡せば良いのですが、
無数に必要な梁のせいで重量的に大変なことになってしまいます。


エアバスが採用した方式
ヒコーキ作る側からすると、ヒコーキも自動車と同じく、断面は四角の方が簡単です。
実際に昔のヒコーキ、現在でも軽飛行機等のキャビンは断面に四角を使っているものが多いですが、
速度と経済性を追求していった結果、空気抵抗の少ない高空を飛ぶことにしたせいで与圧が必要になり、
気圧差に耐えやすい構造ということで、機体の断面は構造が軽くて丈夫な円になりました。
気圧差に耐えるための構造として、旅客機の断面が円というのは非常に理に適っています。
胴体の断面を円にして、真ん中に床を張れば良い(厳密には座席の乗客の肩の高さを最も広くとるのが理想)ですが、
客室の上下に空間が生じてしまいます。
下の空間は貨物室に使うとして、
上の空間は、乗客の荷物入れ、ダクト、配線を通す以外にあまり活用方法がありません。
この円をどんどん大きくしていくと、その分だけ上に無駄空間が広がってしまいます。
ということで、エアバスは無駄になってしまう上の空間に目を付け、ここも客室として活用することにしたのでした。
Wikiの「エアバスA380」の記事内にA380の胴体断面図があるんですが、
「貨物室には規格のコンテナを二列で入れるスペースを確保し、
その上は、乗客が窮屈に感じることのないキャビンを二層構造」
という要求をしっかり満たした上で、与圧してもどこか一点に応力が集中してしまわないよう、
巧みな曲線で輪郭が構成されています。
前述の通り747と比較して横幅はほんの少ししか広げず、二階建てで縦長の胴体になりました。
ロンドンバスみたいなものですかね。


全長と座席数
A380の開発が始まった2000年当時、
航空需要は今後ますます増加すると共に、空港、航空路の過密化の問題が指摘されました。
そのためエアバスは、主用空港間は超大型機で一気に運び、
そこから先の目的地には小型機に乗り換えるという方式(ハブ&スポーク)が今後主流になると予測しました。
そしてそんな主用空港間を飛ぶ超大型機は、当然ながら747しかありませんでした。

747は1960年代の技術で開発されたもの。
ミレニアムの技術をもってすれば、当然それよりずっとすごい旅客機が造れる。
747よりもっと大型で、しかも経済性は勿論のこと、あらゆる性能に秀でたヒコーキを造り、
主用空港間を結ぶ超大型機の主役の座を747から奪うのだ-
そう考えた(であろう)エアバスは、具体的な座席数の検討に入りました。

ここでちょっとライバルの747について。
747のデリバリーは1969年に始まりました。それから-200,-300とモデルチェンジを進め、-400でフルモデルチェンジを行いました。
-400の誕生により、-400以前は「747クラシック」と呼ばれることに。
-400の生産が始まるまで、747の累計生産数は20年間で700機ちょいだったんですが、
1989年1月に生産を開始した-400はその後僅か10年であっという間に約500機がデリバリーされ、
空の王者として君臨していたのでした。
-400の生産は1989~2009年まで続きましたから、
2000年に開発が始まったA380にとって、直接のライバルはこの-400でした。

-400型の座席数についてなんですが、メーカーであるボーイングは
-400の3クラス標準座席数は416。
としているんですが、実際にはおおよそ350~370席で運用している航空会社が多いような気がします。

-400に対抗してどれ位の座席数のヒコーキをつくるべきか?
そのためにエアバスが考慮すべき要素は無数にあったはずです。
ボーイングはボーイングで、エアバスの開発を思い留まらせようとして、
747のストレッチ型の案を複数出すなどゆさぶりを仕掛けてきましたΣ(゚Д゚;)
結果的にエアバスは、おおよそですが3クラスで550席、オールエコノミーで800席の規模としました。
初めからこの座席数ありきで、この座席数を達成する手段として総二階建てになったのか、
はたまた総二階建てでいく目途が立ったのでこの座席数になったのか、
どんな経緯を経て仕様決定に至ったのか不明なんですが、
ともかくエアバスは、ホーイングから王座を奪う機体を、
「総二階建て方式、オールエコノミーで800席」と決定しました。

総二階建方式としたことの効果は絶大で、73mの全長でキャビンの総床面積は747の1.5倍となりました。
この床面積、3クラスで550席、オールエコノミーで800席の座席を並べてもまだ余裕があり、
エアバスはこの余剰スペースをラウンジ、シャワー室、バーカウンター等に使えると航空会社にアピールしました。
A380の開発が正式にスタートしたのは2000年12月でしたが、
1997年12月にエアバスは、全長75.36mの A340-600の開発に着手しています。
また1998年には全長73.9mのB777-300がデリバリーしています。
A380開発の時点で、自社でも他社でもA380より全長の長いヒコーキがあるのは百も承知。
その気になれば「世界最大の旅客機」の名にふさわしく、
それらより長い全長に設定することは十分可能だったはずです。
それでもエアバスは、全長73mで設計を進めました。
こうしてA380は、横幅は747よりほんの少しだけ大きく、総二階建てなので縦長の胴体断面を採用。
前方投影面積が大きいため、空気抵抗が増加してしまう割には、寸詰まりのフォルムとなりました。
横から眺めたA380がずんぐりむっくりの印象なのは、そのせいです。


(続きます)



A380生産終了・2(主翼の話) 
A380生産終了・3(エンジンの話) 
A380生産終了・4(航空会社の話) 
A380生産終了・5(メーカーの話・上) 
A380生産終了・6(メーカーの話・下) 

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