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787運行停止・その4 [├雑談]

バッテリー対策と試験飛行

バッテリー対策を施した787の試験飛行が始まりましたね。

未だ原因が特定出来ておらず、ボーイング幹部が「原因特定はできないかもしれない」

と発言しているのが非常に気持ち悪いところではあるのですが。

バッテリーの発火・発煙の原因として約80項目の要因を想定し、トラブルに対応できるよう改善策を講じました。

改善策には、バッテリーにかかる負荷を軽減するため、充電時の上限電圧を引き下げ、放電時の下限電圧を引き上げること、

バッテリーのセル間に絶縁体や仕切り板を新設するなどして耐熱性を高めること、

新たな格納・排気システムなどを設置し、煙や異臭を機外に放出することが含まれるのだそうです。

特に絶縁などの改善により発火のリスクがなくなる見通しなのだそうで、

16日のニュースではボーイング幹部の話として、

「試験は今後1-2週間以内に終了可能で、数週間以内に運航再開できると確信している」とのことです。

実は787運行停止・その3 に含めようとして途中まで書いたのですが、長くなるのでバッサリ割愛した内容があります。

今回はそのことをぐだぐだと書いてみようと思います。

 

日米の違い

アメリカと日本では航空機事故に対する認識が異なる場合があります。

以前の記事にも書いたのですが、「タービンブレード」の破断のことを挙げてみます。

タービンブレードとは、エンジン内部で回転する沢山の翼の中でも、

高温高圧の燃焼ガスが直接吹き掛けられるため負荷が最も大きく、

ぎっしりと金属部品が詰まった中で極限状態の高負荷運動をしているため、

たった1枚のブレードの破損はエンジンの「爆発」を引き起こします。

日本でコレが起こると即、「あわや大惨事」、「○○航空は弛んでいる!!」、「揺らぐ日本の空の安全」的な話になります。

一方アメリカはこれを大きな問題とは見なしません。

現代の旅客機は必ず複数のエンジンを搭載していて、1つが止まってしまっても離陸を継続することができるように

推力に余裕を持たせる決まりになっています。

だから1つ止まってしまったら、残りのエンジンで速やかに最寄りの空港に着陸することになっていますし、

そうすれば済むのだからとそれ以上問題視しないのがアメリカの受け止め方です。

 

エンジンが止まってしまうと

787のような双発機の場合、1つのエンジンが止まったら、残るもう1つのエンジンだけが頼りです。

そして万一残るもう1つも止まってしまったら、あとはもうグライダーのように滑空するしかありません。

滑空比:10~15(旅客機はおおそよこの位らしい) 高度:10kmとすると、

現在地点から100~150kmの範囲内で少しでもマシな不時着地を見つけるより他ありません。

風向きの問題もあるのですが、その範囲内に空港があれば儲けもの。

なんとか滑走路端まで辿り着ければよいのですが、

「この飛行機はドコに降りるんですか?」と尋ねられたCAさんが顔を曇らせて口をつぐんでしまうようなら、

その日のホテルには「ちょっと一身上の都合で行けないかも(;´Д⊂)」と、

(早く連絡しないとキャンセル料金が)という心配をする羽目になります。

 

確率論

大出力のエンジン開発が可能になったことと、経済性の理由から三発機は消え、双発がますます増えています。

ところが双発の場合、1つが止まってしまうと、残りはもう1つだけ。

仮にこの1つも止まってしまったとすると、100~150km先に不時着という事態に陥ってしまいます。

そんな訳で、双発機は60分以内に緊急着陸できる空港があるルートしか飛ぶことが出来ませんでした。

ところがその後エンジンの信頼性が向上し、 条件は個々に異なるのですが、

60分以内が120分に、更にその後180分、207分と拡大されていきました(詳しくは"ETOPS"で検索してみてください)。

「エンジンの信頼性向上」について具体的な数字を挙げますと、

現代の優秀な大型ターボファンエンジンの場合、飛行中に停止してしまう確率は、1,000時間につき0.05なのだそうで、

これは20,000時間飛んで1回止まる確率ということになり、

言い換えるなら2年3か月の間ずーーーーっと回し続けてやっと1回止まる。という計算になります。

更に優秀なエンジンの場合はこの確率が50,000飛行時間につき1回、

同様に言い換えるなら5年9か月につき1回なのだそうです。

上の数字を二乗倍すると、エンジンが2つとも止まってしまう確率が出ます。

こうしたエンジンの実績が、「両方同時に止まってしまうことはまずあり得ない」とされる所以です。

それでそんなことはまずあり得ない。と割り切り、上記の時間内に緊急着陸可能な空港があるという条件で、

不時着は死に繋がる恐れのある大洋、山脈、大雪原を双発機で越えるルートがFAAにより認可されています。

エンジン停止について詳しくはIFSDで検索してみてください。一気に航空オタク通っぽい感じになります。

 

では、そんなFAAのスタンスでヒコーキのある装置の問題を見てください。

その装置は大人が1人で持ち運びできる程度のもので、飛行中は基本的に使用しません。

つまり完全に故障してしまったとしても、飛行には何ら影響を及ぼしません。

それでは飛行に直接影響を及ぼすエンジンに関して合理的な判断を下すFAAが、

飛行に全く影響しないこの小さな装置の問題でいつまでも飛行禁止にするのは、整合性の面でどうでしょう?

ところが厄介なことに、その装置の故障は出火と発煙の危険が伴います。

それでその問題さえ確実にクリア出来ればそれでよしとする訳です。

 

FAAの立ち位置

ここから先は更にオイラの妄想話になってしまうのですが。

FAAは航空の安全を守るための部署で、航空機メーカーや航空会社のお目付け役という怖い存在なのですが、

米運輸省の一機関であり、ボーイングとは同じ国同士という関係にあります。

ボーイングは世界最大の民間機、軍用機メーカーであり、米国最大の輸出企業であり、

国内外に165,000人の従業員を抱えています。

関連会社まで含めるとその影響力は非常に大きく、まさにアメリカを象徴する企業の1つと言えるでしょう。

加えて787はボーイング民間機部門の今後の命運を担う機種でもあります。

FAAの判断は、

米国の経済、雇用、宇宙、航空、国防に良くも悪くも絶大な力を持つ企業に大きな影響を与えることになります。

自らが運行再開の許可を1日延ばすごとにボーイングと世界の関連会社が、世界の航空会社が、ひいては米国そのものが、

様々な不利益を被っているという一面を重々承知しているはずです。

とはいえ、万一墜落して多くの人命が失われてしまうと、

そんな不利益などあっという間に吹き飛んでしまうのもまた事実。

もしも墜落事故が起きてしまったら、787に運行許可を与えたFAAも責任を免れません。

現に今回のバッテリートラブルを受け、

「こんな問題を抱え込んだ787に承認を与えたFAAの判断は適切だったのか」という声が挙がっています。 

FAAのラフード長官は787のバッテリー問題で当初、「安全な機体と確信している」とコメントしていました。

すぐに「安全を千%確認できるまで飛行させない」と発言を修正しましたが、

オイラにはこの発言が、FAAの微妙な立ち位置、ジレンマを示しているように見えます。

 

日本のおば様

FAAが787運行再開の許可を出すまでにはまだ幾つかハードルがありますが、

最終的には遠からず許可が出されることになるのでしょう。

ANAやJALの787が再び元気に飛び回るようになるためには、

FAA改修許可/運行再開許可→国交省運行許可→各航空会社が運行再開を決定

という流れなのだと思うのですが、オイラは787運行再開の最後にして最も手ごわい相手は日本の乗客ではないかと思っています。

デリバリー当初は、普段なら自分が乗るヒコーキがドコの何というヒコーキかなんて、まっっったく興味なさそうなおば様方さえも、

「787はエコで快適」とご存知で、自分が乗るのが787だと知ると喜んでいましたし、ANAもJALもそういう宣伝に力を注いでいました。

ところがトラブルが多発すると乗客の反応は一変。

「787は怖い」、「787には乗りたくない」となってしまい、そのシーンがテレビで流れました。

上述の通り日本ではヒコーキはまだまだ特別な乗り物であり、

何かあればすぐに墜落を連想してしまう「危険な、怖い乗り物である」という意識が非常に強いです。

運行許可が出ればANAもJALも787を飛ばすのでしょうが、

再開当初は「やった787だ!  ラッキー♪」というノリにはとてもならないでしょう。

むしろ自分が搭乗するのが787だと知るとガッカリする人が多いはずで、

できれば787には乗りたくない。というのが正直なところでしょう。

事前に調べて787搭乗を回避する方もいるはずです。

そうした事情を考慮して、FAAの許可が出ても国交省の許可が遅れるということはないだろうか。

ANAやJALは許可が出ればすぐ飛ばすのだろうか。とまで考えてしまいます。

それともFAAやボーイングの手前、くうきを読んで即座に飛ばすのかしらん。

いずれにしろ787は旅客機なのですから、旅客が乗ってくれてナンボです。

運行再開の許可を出すときには、「万全の対策を施しました。もう787は大丈夫です」という安心感が必要です。

その意味で、 FAA長官の発言は実に余計なものだったと思います。

危険なヒコーキを飛ばすのは絶対許さないぞというのがお仕事のはずなのに、

そのトップがまだよく調べもしないうちから「787は安全な機体と確信している」と言ってしまうのですから。

「安全を千%確認できるまで飛行させない」と言い直しましたが、本来逆ですよ。

 

  調査前: 「安全を千%確認できるまで飛行させない」

  調査後:「787は安全な機体と確信している」

 

勿論言葉だけではダメなのですが、調査の姿勢が首尾一貫していたならどれだけ良かったことか。。。

自分が搭乗するのが787と知り不安を隠せない乗客に対して、

「あの厳格なFAAが太鼓判を押したのだからもう大丈夫!」と胸を張って説明できたはずなのですが。

 

787は、「乗客にも航空会社にも愛されるヒコーキとはこういうものなのだ」という流れを作り出した

エポックメーキングな飛行機として航空史に名を残すことになるはずです。

しかし皆からそう思われ、親しまれるにはしばらく時間が掛かりそうです。

日本は独特な空港事情故に、他国と比べて大型の飛行機を短距離で使い回すことが多く、

そのため機体の不具合がまず日本で発生することがままあるようです。

奇しくも今回のバッテリートラブルがそうでした。

加えて日本の乗客(とマスコミ)のヒコーキに対する意識には特有のものがあります。

そのため日本の航空会社、整備士の間には、「我々が航空安全の最前線にいる」という意識がとても強く、

それが1985年の御巣鷹以来30年近く死亡事故ゼロの記録更新に繋がっているのだとか。

「日本で鍛えられた。」「最初に大量にデリバリーしたのが日本で良かった。」

そう笑って言える日が来ますように。

「787だ。やったあ!」と喜ばれる日が来ますように。


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コメント 10

tooshiba

羽田新千歳が世界一のシャトル路線(頻発している)だとか、ギチギチ詰め込む仕様(「こんなの日本しか買わねーw」みたいな)ものがあったりしますからねえ。>B747-400Dとか

アメリカ人はお国のためとなれば。
外国、ましてや子分?虫けら?扱いの我が国が理詰めで疑問を呈したところで、聞く耳を持たないのが実情でしょう。
下手しなくとも「うるさい黙れ。お前らの使い方が悪いだけだ。我が国みたいな運用方法に変えろ」などと言い出しかねません。

もしも、グローバルスタンダードが「良くも悪くも、自国の流儀を外国に押し付けること」だとしたら、紛れもなく、アメリカのやっていることはそれです。
このままだと、B787そのものがどこぞのOSメーカーの特定のバージョンよろしく「要らない子」扱いになりかねませんね。
by tooshiba (2013-03-18 11:48) 

おろ・おろし

B787が、一昨年の11月、
最初に営業フライト先に選んだ岡山空港をベースとしている私は、
今年も、1/8-1/10の往復で、B787に乗っているんです。

おば様ではなく、おじさんですので、
運航再開すれば、まあ大丈夫だろうと安易に考えると思いますが、
原因がわからないままというのは、ボーイング社として無責任だと
思います。

ANAやJALには、A350の早期導入も行ってほしいなあ・・・。

それとB787の国内線仕様機は、暫定国内線仕様機と比べると、
ちょっとなあ・・・。
by おろ・おろし (2013-03-18 20:22) 

うめ

航空機の安全対応に対するアメリカとの比較もなるほどと興味を持ち読ませていただきました。
結構飛行機に乗る機会がある私も、「今回のトラブルが墜落などの重大事故に繋がるものでは無い」と判ってはいても以前のように787を選んで乗るか。といわれれば
残念ながらNoですね。やはり日本人のおじさんです。(笑)
ボーイング社がバッテリー改善説明会を日本で開いたのも、日本を無視できないあらわれなんでしょうが早くこの問題が片付いて787が名機と呼ばれることを祈っています。


by うめ (2013-03-18 21:43) 

とり

皆様 コメント、nice! ありがとうございます。m(_ _)m

■tooshibaさん
アメリカとボーイングが日本に酷い押し付けをしてくるかどうか、実際のところはオイラには分かりませんが、
そんなことがあるのなら、今はほぼ同じような性格のヒコーキをエアバスが揃えているので、
選択肢は確保できているということになりますね。

■おろ・おろしさん
運行停止ギリギリまで乗っておられたのですね(@Д@)
「まかりまちがっていれば…」の思いがおありなのではないでしょうか。
原因不明というのは気持ち悪いですよね。早く問題がハッキリしてほしいと思います。

■うめさん 
>No
そう感じる方が多いと思います。
バッテリー改善説明会、外国では日本で真っ先にやったんですよね。
仰る通り非常に気を使っているのだと思います。
原因が特定されるとよいのですが。。。
by とり (2013-03-19 06:09) 

takkun

安全に関する考え方の違いが消費に与える影響って、本当に大きいですよね。食品業界に身を置いていると、こんなのまで…というような自主回収(つまり廃棄)がほぼ毎週のようにあります。それで安心安全信頼を築いている、という見方もありますが、メーカーが自主回収の保険を掛けたりする為、それはまわりまわって価格に反映され、消費者、メーカー双方の首を絞めているなあと感じることがあります。
旅客機と食品を同じくくりに入れるのはどうかと思いますが、個人的にはタービンブレードの損傷なんかはフェールセーフの考え方から、いいんじゃない?なんて思ってしまいます。ので、787もとりあえずはバッテリーの発熱発火による飛行への影響が最小限にとどめられれば飛ばしてもいいんじゃない?と思います。
仕組みが複雑であればあるほど、初期不良は起こり得るものだと思います。
「事故ばっかりのはつかり」と揶揄されたキハ81系も、一つ一つ丹念に原因をつぶしていって、最終的には名車と言われるようになったのですから、787も多少のトラブルには目をつぶって、名機になるのを見守りたいと思います。
でも、日本では私は少数派なんでしょうね。
by takkun (2013-03-19 17:25) 

夢空

しっかりと読ませていただきました。
今、ハマっているのは、ナショナルジオグラフィックチャンネルのメーデー☆
過去の事故を検証する番組ですが、えーっそんなことで?という理由の事故。
そういう事例があって、改善されてきたんだということもよくわかりました。
とりさんの言われるように、787が喜ばれる日がくるといいですね(^_^)
by 夢空 (2013-03-19 22:18) 

an-kazu

短絡的に何でも大袈裟にしてしまう
我が国の報道姿勢がねぇ(´ε`;)ウーン…
by an-kazu (2013-03-19 23:34) 

とり

■takkunさん
食品業界も信用第一ですからね。
一旦事故が起きると大変なことになってしまいますから神経過敏な程になるのは分かる気がします。
タービンブレードの交換頻度を今の倍くらいにすれば破断事故は格段に減らせるでしょうが、
ブレード一枚70万円以上、1セット一億円以上、ホットセクションの分解だけで3日かかるとか。
整備費はそのままチケット代に跳ね返りますからね。やっぱりどこかで線引きが必要なんでしょうね。
takkunさんは詩104:15的なお仕事だと思ってました。

■夢空さん
ご覧いただきありがとうございます。
ナショジオの航空事故シリーズはオイラも随分見ました。
勉強になりますよね。

■an-kazuさん
オイラもそれは大きいと思います。
タービンブレード破断のエンジン爆発程度じゃあちらではニュースにもならないとか聞いたことあります。
国民性の違いなんでしょうか。。。
by とり (2013-03-20 06:21) 

鹿児島のこういち

早くちゃんと飛べるようになるといいな、787!
by 鹿児島のこういち (2013-03-22 23:11) 

とり

■鹿児島のこういちさん
同感です。
早く原因が究明されてちゃんと飛べるようになって欲しいです。
by とり (2013-03-24 05:41) 

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